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「セントラルサイエンスとしての分析化学-分析化学を学ぶ意義-」 教授 櫻川 昭雄

 1.3 分析化学を学ぶにあたって(分析化学をセントラルサイエンスと位置づけた理由)
 自然科学とは、自然に属する種々な対象物を取り扱い、そこに潜む真実や真理を取り出し、その法則性を明らかにすることを目的とする学問であります。したがって、すべての科学は、自然に潜む真実や真理に関する情報を収集する方法論、それらの情報をまとめる各論、各論から導き出される理論の調和的な発展によって進歩すると考えられます。化学は、自然に存在する物質がどのような物質の集合体であり、またそれらの間にどのような相互作用が存在するか、さらにそれらの物質がどのような元素からどのような割合で構成されているか、その構成の法則性は何であるかを探求し、物質の本性に迫ろうとするものであります。さらにその法則性を利用して新しい物質を作り出すことを研究する学問であります。この地球上に存在するすべての化学物質(大気、地球、生命体を含めて)は、人工的に合成されたものを含めて1500万種類以上存在するといわれていますが、これらは約90種類の元素の結びつきによって作られています。このような膨大な数の化学物質に関する化学を進歩・発展させることにより、自然の成り立ちから生命現象の解明、自然に潜む真実・真理の解明などが進展していく。人類が生存する限り、化学の研究は尽きることはないといっても過言ではありません。
 自然科学の一分野である化学も、真実・真理を取り出す方法論の開拓(分析化学)、各論の蓄積(無機化学、有機化学)、理論の展開(物理化学)の三位一体的発展が必須であり(図1)、また、これらの成果は新しい物質の創生の開発を促し、さらに新しい真実・真理の解明に寄与するものと考えられます。分析化学の成果は、「生命科学」、「臨床化学」、「環境科学」、「工業化学」などの広範囲な分野で各種試料の分析に利用されています。したがって、分析の質的な低下は、まかり間違えれば生命の危機をもたらし、あるいは品質管理分析の間違いは膨大な損失、危険性をもたらすことにつながります。このように分析化学は人類の知的資産の形成に必須の学問であるばかりでなく、医療技術や産業技術として現実の人間社会に極めて重要な学問であり、人類社会の進歩と発展に先んじて常に進化し続けなければならないという運命にあると思われます。
図1分析化学とは?
図1 分析化学とは?(Analytical Chemistry)
言い換えれば、分析化学は最先端科学の進展に必須の分析技術や解析技術を生み出す母体としての基礎的役割を担っているといっても過言ではありません。それだけに、分離機能、センシング機能、解析機能の創製を通して自然科学に貢献する分析化学の責任は重大であり、これら機能創製の前には広大なフロンティアが無限に広がっていることから分析化学をセントラルサイエンスと位置づけているが、自由経済社会ではあまり重要視されていないのが現状です。