Top > 研究内容紹介 > 櫻川教授

「セントラルサイエンスとしての分析化学-分析化学を学ぶ意義-」 教授 櫻川 昭雄

 1.2 分析化学とは
 現代社会は情報化社会ともいわれ、その技術革新には目を見はるものがあり、インターネットを用いれば国境を越えて世界各国の多くの情報を瞬時に手に入れることができます。分析化学の分野においても情報化の技術革新の恩恵を受けることが目覚しい。最近の分析機器ではコンピュータによる自動化や情報処理化が進み、試料を導入して測定後は自動的に得られたデータが記録されます。ややもすると分析の基礎知識や基礎技術が乏しくても、測定機器を取り扱うことができるオペレーターがいれば分析は容易にできると錯覚される傾向にあります。これは非常に大きな危険性をはらんでおり、信頼できる分析データを得るには、共存する物質が分析結果に与えるさまざまな影響と測定(あるいは実験)を行っている環境からの汚染が考慮されており、使用した分析機器の定量限界や精度といった質と適正な分析データの処理が保証されていなければなりません。さらに分析機器に測定試料を導入するまでに行うさまざまな操作(試料の採取、測定試料の調製や前処理)が完璧に行われていることが大前提となります。このように、信頼できる分析結果を得るためには、分析機器が正常に作動することは基より、測定に至るまでの化学的操作と測定結果の適正な評価が大部分を占めることになります。すなわち、高度(あるいは高価)な分析機器は試料の採取・調製からデータ処理まで熟知した高度な技術と知識を有する分析の専門家(Analyst)の存在が不可欠であります。
 最近では、分析化学の対象は高純度物質、機能性材料、新素材、環境汚染物質、生体関連物質や医療の領域などに急激に広がりつつあります。特に地球規模での環境問題の解決には、極微量成分の分析技術あるいはその動態についての解析などの高度な知識と技術が要求されています。さらに成分の存在状態を分析するスペシエーション(speciation:種別分析)、結合状態や反応挙動などを分析するキャラクタリゼーション(characterization:特性分析)などに関する情報を取得し、解析・吟味しなければなりません。このように、対象となる物質の量と質、ならびにその形態や状態に関する化学情報が求められており、分析化学の適用範囲がますます広がる状況にあります。同時に極微量成分の分析では、現時点で最高の感度を誇る分析機器でも試料をそのまま導入して分析できることは非常にまれであり、さまざまな溶液反応を伴う分離や濃縮操作などを併用しなければならない場合が多い。すなわち、「無機化学」「有機化学」ならびに「物理化学」の基礎知識、さらには分析化学で学ぶ酸・塩基反応、酸化・還元反応、錯形成反応ならびに沈殿生成反応などの化学的基礎知識がなければ信頼できる正確な分析を行うことはできません。また、分析化学は単に分析技術者のために必要であるだけではなく、広くは化学のどの領域に進む学生によっても、化学の基礎を理解するために必要な基礎教育の分野でもあります。