Top > 研究内容紹介 > 森田准教授

「物質を測る-全元素分析で何が分かる!?」 准教授 森田 孝節

5.研究する動機
 では,試料ならびに目的成分はどのようなものがあるでしょうか?ちょっと考えてみても組み合わせは無限にあります。でもよ~く考えて見てください。試料も目的成分も最小の単位までバラバラにするとどちらも「元素」に行き着きます。そうです。試料も目的成分もすべて元素から構成されているのです。
 私達の周りにあるものは全て元素から構成されています。なぜなら元素は宇宙の始まりであるビッグバンと星の終焉である超新星の爆発のエネルギーによって作り出されました。それを集めたものが周期表です。1869年にメンデレーフが当時,発見されていた63元素について似た性質をもつ元素のグループごとに原子量が大きくなるように7並べのようなカードゲームと同じように並べていくうちに周期表に行き着きました。驚くことに当時発見されていない元素を空欄としておいたのですが後年,見事にその空欄が埋まり,周期表は完成しました。しかし,各元素それぞれの総数は先に述べたことがない限り増えたり減ったりすることはありません。これは錬金術の歴史からも明らかです。(現在では正確に言えば錬金術は可能です。)この元素が複雑に絡み合い(結合して)多様な物質が作り出されているのです。しかし,物質は構成する元素によって変化しますが元素そのものは変化しません。従って現在の我々の住む世界では各元素それぞれの数は一定であるといえるでしょう。
 時は流れて1930年代,地質学者である Noddack によって提唱された「元素普存説」は岩石,鉱物中にはすべての元素が存在するというものですが当時は分析技術が未熟のため,証明できませんでしたが現在の技術でほぼ証明できるようになりました。(ただし,自然界に存在する元素はウランまでです。ウラン以降は人工放射性元素で寿命が非常に短い元素です。)ここで我々をとりまく環境を考えると気圏,水圏,岩石圏から構成されています。ここで岩石圏に全元素が存在するなら他の圏,ひいては生物にも全元素の存在が考えられます。Haraguchi1) は植物や動物試料の多元素分析を展開しており,ヒト血清中にすべての希土類元素が存在することから拡張元素普存説を提唱されています。また人の血漿中の元素組成は海洋中の元素組成に類似しています。これが生命の海洋発生説に繋がっています。従ってこの世に存在するもの全てに元素は含まれていてそれぞれの物質に応じて存在する元素の存在割合にパターンがあるものと考えられます。そこで私は元素プロファイル分析(構成される元素のパターンによってそれぞれの性格付けがなされる)が可能であると考えています。
 そのためにはそれぞれの元素を識別し検出できる方法ならびに試料中に元素一個(すなわちアドガドロ数の逆数)でもあれば検出できる手法の開発が必要になります。