無機材料化学研究室 遠山グループ│日本大学理工学部 物質応用化学科

研究紹介

機能性肥料の創製

 現在,日本の食料自給率は39%と低く,さらには輸入食品の危険性などが指摘されているため,安心で健やかな生活を構築するためには,日本の食料生産効率を向上させる必要があります.このため,食料生産率を高めるための高付加価値の肥料,あるいは生産者の手間を軽減することができる機能性肥料の開発が必要ですが,このような材料を創り出すには工学系の研究者の視点が必要と考え,以下の研究を行っています.

1) 組成傾斜粉体を用いた機能性肥料の創製

 先に噴霧乾燥法による組成傾斜型球状粒子のワンプロセス合成について説明をしましたが,この応用として肥料の有効成分を徐放する徐放性肥料の創製を行っています.

 植物の成長に必要な3大栄養素は,窒素,リン,カリウムですが,その中でリン酸肥料として代表的なものとして水酸アパタイト(HAp)があります.このHApをマイクロカプセルの中空壁(保護膜)として用い,内部に硝酸カリウムなどの可溶性成分を封じ込め,長期にわたり硝酸カリウムを放出する機能性肥料の創製をめざして,粉体の合成および肥効の確認を行っています(図6).


図6 徐放性肥料の模式図とトマトの栽培実験

※この研究は科学研究補助金(科研費)若手B(研究代表者:遠山,H21~22)の助成を受けています.

2) 硫酸置換型水酸アパタイトの創製

 HApは難溶性であり,肥効が低いのが難点です.一方,セッコウは可溶性のカルシウム塩であり,硫黄分は一部の植物の結実を促進する効果があります.このため,HAp構造中のPO4にSO4を置換固溶させることで溶解度を制御した機能性肥料が創製できるのではないかと考えました.

 そこで,HApの前駆物質である非晶質リン酸カルシウム(ACP)と硫酸ナトリウムを水熱処理することで,溶解度を制御した硫酸置換型アパタイト(SAp)の創製を目指した研究を行っています(図7).


図7 硫酸置換型アパタイトの溶解特性