無機材料化学研究室 遠山グループ│日本大学理工学部 物質応用化学科

研究紹介

二酸化炭素―材料変換プロセスの創製

 現在,二酸化炭素(CO2)は化学的に安定であり,石油および有機物の燃焼により一旦生じたCO2はその他の化合物に変化しない最終安定物であることは周知の通りです.一方,化学周期表に目を落としてみると炭素(C)のすぐ下に同族のケイ素(Si)が位置していますが,ケイ素の酸化物(SiO2)は炭素の酸化物であるCO2とは異なり,コンクリートや光ファイバーなど,日本の強い産業の基本素材として活躍しています.このため,CO2もSiO2同様に各種産業の基幹素材となりうる可能性を秘めています.したがって,世の大多数の人々は「CO2は削減するもの」と考えていますが,私達はむしろCO2は「工業原料として必要不可欠なもの」ととらえ,CO2の物質-材料変換による日本独自の産業の創製をめざしています.

 具体的には以下の4つの柱を構築し,理工学部+生産工学部の先生方と共同で研究を進めています.

1) コンクリート廃材と二酸化炭素を原料とした新規無機フィラーの作製
 (グループリーダー:応化 遠山)

 ケイ酸カルシウム化合物であるコンクリート廃材はCO2を吹き込むことにより,(1)式のように可溶性の炭酸水素カルシウム溶液と,不溶性のシリカへと分解することが知られています.しかし,このプロセスの回収物の用途は乏しく,コスト面から実用化されていません.このため,高付加価値の最終生成物を作製するプロセスができれば,CO2を原料とした工業化プロセスが開発可能であると考えており,(2)式の反応を用いた噴霧乾燥法によるマイクロサイズの中空体を作製について検討しています.このようなマイクロカプセルをコンクリートなどの構造物に骨材として添加することで,軽量コンクリートなどへの応用が可能であり,これにより大量のCO2を建造物に変換できると考えています.

CaSiO32CO2→ Ca(HCO3)2+SiO2??????????(1)

Ca(HCO3)2CaCO3↓+CO2+H2O??????? (2)

2) 二酸化炭素と無機塩を栄養とする微生物からバイオセルロースの作製
 (グループリーダー:短大 西村)

 今,多くの研究者によってCO2を固定化する微生物の探索・活用に関する研究が行われています.しかし,実際には固定化のためには多量の有機成分を含む培地が必要であり,さらに,固定化した後の微生物は工業的な価値はないため,微生物の死骸は最終的に腐敗しCO2として大気中に放出され,結果として系全体として考えればCO2を削減することはできません.したがって,微生物を利用してCO2を固定化するためには,(1) カーボンフリーの無機塩を栄養源として成長する微生物を探索・選択する,(2) 人間の工業生産活動に役立つ副産物を生成する微生物を利用する,ことが必要です.

 このような条件を満たす微生物として緑藻網に属するクラミドモナス(Chlamydomonas)などがあり,これは,NH4Cl,K2HPO4などの無機塩を栄養源としてCO2を取り込みながら繁殖する微生物です.この微生物を用いてCO2を固定化し,さらに,これらを餌として増殖する酢酸菌を培養することで,バイオナイロンなどの新素材として注目を浴びているバイオセルロースを生産をめざした研究を行っています(図8).

図8 無機塩を栄養とする微生物によるバイオセルロースの作製

3) 超臨界二酸化炭素から汎用プラスチックの作製(グループリーダー:応化 星)

 超臨界CO2からの汎用プラスチックの創製はきわめて意義のあるプロセスであり,CO2からエチレンやプロピレンを合成することが可能となれば,CO2を原料とした工業生産活動が可能となります.しかし,CO2は化学的に安定であり,ダイレクトにエチレンを合成することはできません.一方,農作物を育成することでCO2を植物に取り込ませ,その後,種子からバイオエタノールをへてエチレンを合成する方法が検討されていますが,バイオマスを利用した方法は食糧との競合が問題となる他,農作物の大部分を占める茎,葉は廃棄によりCO2として大気中に放出されるため,この効率はきわめて悪いものとなっています.

 そこで,本研究はCO2を31.8℃,7.4MPaの低温度・低圧で超臨界流体とし,触媒を用いて低級アルコールへの変換プロセスの創製をめざしています.このプロセスが実現できれば,年間何十万トンの生産規模の産業への発展が将来的に期待できます(図9).

図9  CO2を原料とした汎用高分子の作製

4) 海洋からの二酸化炭素の回収(グループリーダー:生産工 辻)

 CO2を物質に変換するプロセスを開発しても,一度放出されたCO2を大気中から回収することは多くのエネルギーを必要とします.このため,シリコーン透過膜を用いた蒸気透過法による海洋からの二酸化炭素の回収をめざしています.この方法は操作に必要な圧力差を海水圧から得ることができるため,ゼロエネルギーで海洋からの二酸化炭素の回収が可能です.

※この研究は日本大学理工学部シンボリック・プロジェクト形成支援事業(研究代表者:遠山,H21~25)の助成を受けています.