無機材料化学研究室 遠山グループ│日本大学理工学部 物質応用化学科

研究紹介

組成傾斜型粒子の作製

 組成傾斜材料とは2種の材料が組成を連続的に変化させながら接合した材料です.たとえば,人工骨などの生体材料は金属の骨格表面に水酸アパタイトを接合することで,強度と生体親和性の両方を兼ね備えた材料となっています.しかし,このような材料は合成に複雑なプロセスを必要とし,さらに大きな材料での研究しかされておらず,粉体の組成傾斜についての研究はされておりません.このような内部と外部で組成の違う粒子が簡単な方法で合成できれば,新たな用途への道が開けるものと考えられます.

1)噴霧乾燥法による組成傾斜粉体の創製

 噴霧乾燥法は原料水溶液を高温炉内に噴霧し,瞬時に乾燥させて粉体を得るプロセスで,この方法で得られた生成物は図1に示すような球状の中空体となります.この中空体の生成メカニズムは噴霧した液滴が乾燥するさいに溶解成分が析出し中空壁を形成しますが,溶液中に溶解度の異なる2種類の塩が存在している場合には液滴の表面から水分が蒸発するため,中空壁の外側に溶解度の低い塩が,内側には溶解度の高い塩が順次析出することで,組成の相違する組成傾斜材料が作製できます.


図1 噴霧乾燥法により得られた球状中空粒子の外観と内部構造

 一例として,リン酸一水素カルシウムと(DCPD)アセスルファムカリウムで作製した組成傾斜粒子内部のEPMA組成分析結果を図2に示します.この場合には溶解度の低いDCPD(写真ではCa)が粒子の外側に,溶解度の高いアセスルファムカリウム(写真ではS)が内側に析出しているのが確認できます.このように,溶解度差を利用した噴霧乾燥法によるさまざまな組成傾斜型材料の作製条件とその内部構造について研究を行っています.


図2 組成傾斜粒子内部のEPMAマッピング

2) メカノケミカル法による組成傾斜粉体の創製

 メカノケミカル法とは,衝撃,圧縮,粉砕,混合,混練などの機械的操作において,物質に加えられる機械的エネルギーにより生じる化学反応を利用した合成法です.また,この反応は通常の液相反応とは違い,粒子表面から内部へと化学反応が進行する不均一反応です.

3Ca(OH)2+2NH4H2PO4→Ca3(PO4)2+2NH3↑+2H2O↑

 たとえば,上記の反応においては普通の液相反応ならば,水酸化カルシウムとリン酸アンモニウムが反応して,リン酸三カルシウムが生成しますが,メカノケミカル法を用いることで,図3に示すような表面がリン酸カルシウムで,内部が水酸化カルシウムといった,内部と外部の組成が異なる粒子の作製が作製できます.このため,この方法を用いた様々な組成の粒子の合成とその性質について研究を行っています.
 また,このような粒子は内部の物質を外部の物質でコーティングしたマイクロカプセルとも考えることができるため,粒子の表面改質方法としても利用可能です.


図3 メカノケミカル法による組成傾斜粒子の内部構造の模式図