研究成果

 分子は機能発現の最小単位です.生物中では,1つの分子が1つの機能を担い,それらが共同したシステムとして高度な機能を発現しています.人工分子を合成,操作できる化学の究極の到達目標は,合成分子1分子が1つの機能を担い,それらが共同して高度な機能を発現させる分子システムを作ることでしょう.また,ナノサイエンス,ナノテクノロジーは,小さく小さくという方向に進んでいます.その行き着く先は,機能発現の最小単位である分子ということになるでしょう.分子がナノサイズ領域の物質であり,極限的に高度な機能をもつことができることに着目し,分子レベルで動作する素子―「分子デバイス」―をこれまで一貫して研究し,新しい原理に基づく分子素子を開発してきました.

 分子はうまく作ると,超分子を形成します.「「超」分子」というのは,分子が規則的に集まった分子組織体のことで,集まる前の個々の分子にはない機能を新しく発現させることができます.例えば,生物の機能は超分子によって実現されています.分子間の相互作用をコントロールして,どのような超分子が形成されるかを調べ,これまでになかった高機能な分子デバイスを作り出す研究をしています.

 特に,分子と光の相互作用に注目し,光が分子に吸収されて,電子が移動したり,エネルギーが移動したり,またこのようなプロセスをオン・オフスイッチングする分子デバイスを開発してきました.天然の光合成は,分子が組織化して超分子を形成し,高効率で光エネルギーを化学エネルギーに変換しています.私たちは,光合成に学び,人工の光エネルギー変換超分子デバイスを開発しています.合わせて,人工的に光エネルギーを用いて水を分解して化学エネルギーとして蓄えたり,あるいは電流として取り出す太陽電池のための分子材料の開発も行っています.

 これらの研究は,実用化されている技術の一部を改良したり向上させて,すぐに役に立つ技術を開発しようとするものではありません.分子のサイエンスに基づいた究極の分子デバイスの創生という将来の夢に向かった知の挑戦です.

 それでは,これまでに科研費の補助を受けて行った研究成果をご覧ください.

Research
科研費 2018-20 メタラクラウン錯体の自発的生成の機構解明と空孔利用展開
科研費 2015-17 耐光性に優れた新規長波長色素の合成,分光特性,応用
科研費 2012-14 貴金属を用いない超分子光触媒の創製
科研費 2010-13 分子回転子の構築と回転の制御
科研費 2009-11 分子マシンをめざしたダブルデッカー錯体の回転の可視化と制御
科研費 2006-07 分子レベルで構造が規定された表面配位空間の構築
科研費 2004-05 フォトクロミック分子アレイの作製と光異性化の単一分子測定
科研費 1998-99 レドックス応答性分子フォトニクススイッチの設計および合成