有機応用化学特論Q&A 021025
Q:脂肪酸のお話で、不飽和脂肪酸はふつうcis体である。というのがありましたが、
より安定な構造のtrans体ではなく、cis体であるのは何故なのでしょうか?
Q:天然にある脂肪酸のほとんどはcis体で、trans体はほとんど存在しない
と言われていましたが、構造的に言ったらcis体よりもtrans体の方が安
定していると思うのですが、なぜtrans体は天然でほとんど存在しないので
すか?
A:生体内の脂肪酸が不飽和であるのは、常温で液状にして組織を柔らかく保つため
です。そのためにはtrans体よりもcis体の方が融点を下げる効果が大きく有利な
ので、そういう方向に進化したのでしょう。
Q:脂質の講義でしたが、アミノ酸の話がでたのでそれに関連して質問します。
独立栄養細菌は自分の体内でアミノ酸を合成することができるのに、進化が進む
とアミノ酸を合成する能力がなくなり、必須アミノ酸の摂取が必要になってしま
うのはなぜですか?
A:進化というのは環境への適応ですから、外から確実に摂取できるアミノ酸は合成
できない方が余計な代謝系がなく適応が進んでいると考えられます。
Q:オリーブオイルを多く摂取する地中海地方の人たちは,皆長寿である,と言うこ
とをどこかで読みました.オリーブオイルには他の植物油脂よりもオレイン酸が
多く含まれているためだ,というようなのですが,オレイン酸の体内へのとりこ
まれかたが,他の脂肪酸とどう違うのかが分かりません.
A:体内への取り込まれ方が他の脂肪酸と違うということはないと思います。オレイ
ン酸が体によい効果があるのは取り込まれてからの代謝に影響があるからで、詳
しいメカニズムはまだ不明でしょう。
Q:プリントに、”天然に分布している脂肪酸の炭素鎖は、特殊な例を除いてほとん
ど枝分かれ構造が無い”とありますが、特殊な例と言うのはどのようなものなの
でしょうか?
また、それはどのように生成するのでしょうか?
A:生体内には微量ですが枝分かれのある脂肪酸もあります。そのほとんどは普通の
脂肪酸のどこかにメチル基が1〜数個ついた構造です。どのような役割があるか
は知りませんが、もしかしたら特異な生理活性がある可能性もあるでしょう。
生成はおそらく普通の脂肪酸がメチル化するのでしょう。
Q:自分の実験にも関することで、しかも脂肪酸にはあまり関係のないことなのかも
しれませんが質問です。自分の実験ではD−アミノ酸脱水素酵素の研究をしていま
す。世の中にはD型とL型のアミノ酸がありますが、体の中では一般にL型のアミノ
酸が発見されています。つまりDとLには何らかの差があるのです。以前にも『Dと
Lは全く性質の違うものがある』というのを聞いたことがあります。世に存在する
D型とL型はどのくらいの種類の割合で性質が違うのですか?
A:「性質が違う」というのをどのように定義するかの問題で、当然ながら立体化学
的には全部違います。体内のたんぱく質の構造は複雑ですから生理的にも違うこ
との方が多いと思います。
Q:脂質の具体的なおもな働きについてですが、具体的に我々が生活する場において
どんな役割を果たしているのでしょうか?
A:量的には生体内の脂質の大部分は脂肪(トリアシルグリセロール)ですから、エ
ネルギーの貯蔵や組織の保護(皮下脂肪とか)に使われるものが大部分です。
微量なものにはホルモンなど特異な生理活性があることも多いです。
Q:脂肪酸の研究が始められた当時、単一成分の抽出と構造決定はどのような行程で
行われていたのですか。
A:今でもほとんど変わっていませんが、炭素数や二重結合が数個異なったり、二重
結合位置が異なる異性体の単離は非常に難しいです。普通は GC や HPLC で定量
します。構造決定には質量スペクトルが有効です。
Q:最近、食用油において、食べても体内で燃えてしまい、脂肪がつきにくい(なり
にくい)という特色をうたったものがヒット商品となっています(健康エコナクッ
キングオイルなど)。こういったものは化学構造的にどういった特徴があり、ま
た、そのような構造を持った脂質を合成するには(もしくは、もともとある分子
に持たせるには)には化学的にどういった処理を行なったらよいのでしょうか?
A:次の質問中に答えが書いてありますが、1,3-ジアシルグリセロールです。
合成法ですが、リパーゼ(脂肪分解酵素)は可逆的に働くのでエステル化にも使
えます。1位と3位にだけ作用するリパーゼを使ってグリセリンに脂肪酸をつけ
れば、1,3-ジアシルグリセロールが合成できます。
Q:通常の食用油ではトリアシルグリセロールの1位、2位、3位が置換されている
のですが、ダイエット油(商品名エコナ)は1位、3位が置換され2位は置換さ
れていないと言う話を耳にしたことがあります。これは、真実ですか?
また、どうして2位を置換しないと体に脂肪が付きにくく、体内で燃焼しやすい
のですか?
A:エコナは2位に脂肪酸がついていないアシルグリセロールだというのは本当です。
脂肪(トリアシルグリセロール)は腸内でリパーゼによって加水分解され、2モ
ノアシルグリセロールと脂肪酸(1位と3位についていたもの)に分解されて腸
壁から吸収されます。体内では2モノアシルグリセロールの1位と3位に脂肪酸
がついてトリアシルグリセロールが再合成されます。従って、2位に脂肪酸がつ
いていない1,3-ジアシルグリセロールからは2モノアシルグリセロールができな
いので、脂肪も再合成されず、体脂肪にならないというわけです。
グリセリンや脂肪酸は蓄積されずにエネルギー生産に使われます。
Q:今実験で油脂をリパーゼ(Rhozopus delemar)で加水分解しているのですが、反応
温度は多少違ってもあまり結果には影響しないようです。カカオ脂は大体40度付
近、豚脂は42度ぐらいで反応を行っています。
質問なのですが、なぜ豚脂はカカオ脂よりも高い温度で加水分解しやすいのです
か?
A:油脂(脂肪)はトリアシルグリセロールですから豚脂だろうとカカオ脂だろうと
化学的性質は同じです。ただ、反応は液体の方が進行しやすいので、反応性が違
います。液体になる温度(融点)は脂肪酸組成や脂肪酸の付き方によって変化し
ます。
Q:トリアシルグリセロールについている脂肪酸が3個全部違うとその分子の真ん中
の炭素がキラル炭素になって2つの光学異性体が存在しし、その2つは化学的に
は違う構造という事になりますが、それが体内に存在したときその2つの違いは
どのように影響するんですか?
A:その違いが生理的になにか影響があるかどうかはまだ分かっていないと思います。
ただ、生体内のトリアシルグリセロールの1位と3位の脂肪酸組成が明らかに異
なることがありますから、生物にその違いを区別する仕組みがあることは確かで
しょう。
Q:深津先生の研究室では脂肪酸をGCにより測定していた用に思いますが、GCで脂肪
酸は直接検出できるのですか。この疑問を感じたのは、GCでカルボン酸を検出さ
せる時はトリメチルエーテル化剤などを用いてカルボン酸を保護して測定しない
と検出できないと言うことを聞いたことがあるので、実際のところどうなのかな
と思い質問させていただきました。疑問に感じている点を下に示すと
1)カルボン酸は直接GC測定できないのか。
2)GC測定において脂肪酸とカルボン酸での挙動はことなっているのか。
3)直接測定できないならばその原因は何であるか。
4)カルボン酸を保護する方法でより安価で簡便な方法は無いか。
という点です。
A:1)直接GCでは測定できません。
2)脂肪酸というのはカルボン酸ですから、同じものです。
3)普通GCで用いられる固定相で測定するには極性が高すぎるからです。
4)脂肪酸のGCは普通はメチルエステル化して行います。TMS化より安くて簡
便だと思います。
HPLC なら直接測定する方法があります。次回(11/8)話します。
できたら質問は1つでお願いします。
Q:脂肪酸をメチルエステル化する場合、三フッ化ホウ素ーメタノール法と硫酸ーメ
タノール法がありますが、試料によって使い分けた方がいいのですか?ちなみに
私は、いつも三フッ化ホウ素ーメタノール法を使っています。
A:基本的には両方とも酸触媒ですから、使い分けなくてよいと思います。
この2法以外にジアゾメタンを使って直接メチル基をつける方法がありますが、
これは反応機構が違います。ちょっと面倒ですが、収率は高いはずです。
Q:脂肪酸はアシルグリセロールを加水分解させるとで得られるのですが、アシルグ
リセロールが枝分かれをしたアルキルを含むものを加水分解したときには、枝分
かれした構造の脂肪酸が得られるですか。また、枝分かれの構造をした脂肪酸は
主にどのような特性がありますか。
A:枝分かれした脂肪酸を含むアシルグリセロールを加水分解すれば,もちろん枝分
かれした脂肪酸が得られます.特性は普通のアルケンと同様に同じ炭素数の直鎖
脂肪酸より融点がちょっと低いなど物理的性質は少し違いますが,化学的にはほ
とんど同じです。ただ、枝分かれのところでβ酸化がたぶん停止するので、生体
内では分解されにくいでしょう。
Q:脂肪酸の中で1番分子量が多いのは何でいくつぐらいなんですか?
A:主要成分として含まれている物では DHA の炭素数22くらいが1番大きいです.
手元の本(油化学便覧)によると、炭素数36の直鎖飽和脂肪酸が牛乳に含まれて
いるそうです。極微量なものならばもっと大きいものがあると思います.
Q:健康によい食用油でジアシルグリセロールを使っているということを聞いたこと
があるのですが、エチレングリコールと脂肪酸からできる油は食用になるのでしょ
うか?
A:毒ではないと思いますが,消化は悪いと思います.あ,消化が悪ければダイエッ
ト食品になるかもしれませんね.下痢するかも。
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