有機応用化学特論Q&A 021213


Q:発がんのメカニズムについては過去に少し勉強したので分かるのですが、将来   完治させることは可能になると思いますか。可能ならどのような治療法になる   のでしょうか。やはり遺伝子治療になるのでしょうか。今後の医療分野でも特   にがん関係は研究が進む分野の一つだと思います。また、さまざまな病気の原   因遺伝子が突き止められ、遺伝子治療などによってQOLの向上には大きく貢献   すると思いますが、遺伝子をいじることは、反面少し怖い気がします。 A:現在、がんの種類に応じて外科的療法、放射線、化学療法、免疫療法が組み合   わされ、胃がん、子宮がん、乳がんなどではかなり治癒率が高まっています。   遺伝子治療は1990年代にはいってから臨床治療が始まりました。基礎研究の進   展とともに発展が期待されますが、倫理上問題がないかどうか十分な検討と世   論の合意が必要です。   治療法が進むのにつれ、がんを治すとしばらくして別のがんが発生するという   問題が浮かび上がってきています。どうやらエンドレスの戦いなのかもしれま   せん。
Q:講義の中で、変異原性試験というお話がありましたが、具体的にはどのような   試験を行うのですか? A:講義の中では最もよく使われるバクテリアを用いた復帰突然変異の系を紹介し   ましたね。寒天培地にバクテリアを撒いておき、そこに適当な濃度の化学物質   溶液を加え、培養後、復帰突然変異したバクテリアの数(コロニー)を数える   ものです。ほかにも多くの試験法があります。
Q:正常細胞から突然変異細胞に変化するとき、濃度、量、時間が問題とおっしゃ   られていましたが、具体的にどのくらいなのですか? A:化学物質の種類によって異なります。例えばベンゾ[a]ピレンをTA100という菌   を用いて試験すると1nmolあたり121の変異したコロニーが検出されます(常盤   1991)。この数値が大きいほど変異原性が強いと言えます。
Q:がんに至る過程の説明のところで不死化細胞の話がありましたが、なぜその細   胞は死ななくなるのですか?   不死化細胞から正常細胞に戻ることはあるのですか? A:細胞の数は遺伝子によってコントロ−ルされています。例えばリンパ球では、   分化段階で望ましい抗原レセプターを有する細胞のみが選択され、残りの約   97%は除去(細胞死、アポトーシスという)されてしまいます。   細胞の死を指令する遺伝子は、「がん抑制遺伝子」と呼ばれていますが、これ   が化学物質などによって失活すると本来死ぬべき細胞が生き残り、増えてしま   うのです。異常な細胞はただちに死なせるのが、望ましいですね。不死化細胞   が正常細胞に戻るということではありませんが、抗がん剤にはがん細胞にアポ   トーシスを起こさせるものがあります。
Q:発ガンにおけるGCからTAへのトランスバージョンというお話で、GにBPDEが付   くと、Gと水素結合していたCがAに置き換わり、そのAに対してTが付くのでGCか   らTAになるとお聞きしました。GにBPDEが付いて向かい側がCからAになる際、A   がTなる際など、塩基がはずれてから代わりの塩基が来るまで、塩基どうしの横   の結合がどうなっているかなど、詳しい反応機構がどうなっているのでしょう   か? A:これはDNAがポリメラーゼによって複製されるときの問題です。重要なのは横   方向でGに対しては相補的な塩基(C)を持つ5’-リン酸ヌクレオチドがポ   リメラーゼの働きで取り込まれるのが正常です。ところがGにBPDEがつくと相手   をAに選んでしまうということです。そして、この誤りが保存されると、次の複   製の際に、Aは必然的にTを選ぶので誤りが拡大していくのです。
Q:リノール酸は必須脂肪酸で、アラキドン酸を合成したり、血中コレステロール   値を下げたりして体にいいことばかりかと思っていたのですが、過剰に摂取す   ると癌の増殖を促進します。これはなぜですか? A:脂肪摂取の過多や肥満ががんの発生率を高めることは疫学調査で判明していま   す。その理由は私も良くわからないのですが、活性酸素によって脂質過酸化物   が生じ悪影響を与えているという説があります。
Q:発ガン過程は、まず、正常細胞が[発ガン剤]によりイニシエーションされ、突   然変異細胞となり、[発ガンプロモーター]によりプロモーションされ、不死化   細胞となり、今バーションしたのち、ガン化細胞となり、ガンとなると瀬戸氏   は説明なさっておりました。また、ガンとは、ガン原遺伝子(細胞の分裂促進   など)の活性化とガン抑制遺伝子(細胞の分裂の抑制など)の失活だともおっ   しゃっておりました。そして、このことより、ガンは生命の営みの一部として   引き起こされる現象であるとも言っておりました。   質問なのですが、上記の瀬戸氏の話にもありました、細胞が突然変異すること   が、ガン化の最初であります。突然変異は、生命の進化に大きく関わっている   とされておりますが、ガンというのも生命の営みの一部であるとすれば、それ   は、生命の進化にも関わっているのでしょうか? A:発がん過程と生命の進化に共通するのは遺伝子の変異ということです。但し、   変異の場所やスケールが異なります。ガンそのものが生命の進化にも関わって   いるとは言いにくいですね。多くのがんは生殖適齢期を過ぎてから、発症する   ので淘汰も効かないです。
Q:巷ではよく「焦げている物を食べると癌になる」という事を聞きますがこれは   本当なのでしょうか?また、どの位の焦げだったら平気なのでしょうか?通常、   癌は正常な細胞のDNAが突然変異を起こし癌細胞となり異常な速度で増殖し   癌が発病します。この事から焦げがどの様に関与して癌細胞となり癌が発病す   るのですか??教えて下さい。 A:より正確に言えば、「焦げた食品を常時食べる習慣があるとがんになりやすい」   ということです。焦げた部分には多環芳香族炭化水素やヘテロサイクリックア   ミンといった発がん性物質が多く含まれているからです。量が問題でたまに食   べる程度であればまったく問題ないでしょう。講義の内容よりも詳しいことを   知りたい方はぜひ勉強してみてください。
Q:炭粉とベンゾピレン単体の発がん性のデータを見せていただきましたが、二つ   の物質が相互作用しているかどうかのデータはあるのでしょうか。 A:講義の中で見せたデータは炭紛とベンゾピレンなどの発がん性物質が一緒に   なってヒトの肺がんに寄与していると解釈すべきです。では、単体ではどうか   というと実は炭紛そのものでもネズミに肺がんを起こすことが最近の研究でわ   かりました。それは異物を肺内の細胞が処理していく過程で炎症状態となるた   めに活性酸素が生成し、DNAの酸化的損傷が生じるためと考えられています。   ベンゾピレンについては多くの発がん実験があります。
Q:がん原遺伝子とがん抑制遺伝子のバランスが崩れ、前者が活性、後者が失活し、   DNA情報の読み違いなどで発がんにいたるようなことをおっしゃっていたの   ですが、バランスを崩してもDNA情報を正しく読み取っていた場合はどうな   るのでしょうか。 A:順序を逆転して理解しているようですね。がん関連遺伝子の変異というのは、   読み違いが確定した結果なのです。その後、がん関連遺伝子の作用が発現する   ことでがん化へと繋がって行きます。
Q:癌は遺伝すると聞いたことがありますが、癌の遺伝子をもっていても食生活な   どに気をつけていれば必ずしもなるとは限らないのでしょうか? A:そのとおりです。食生活だけでなく休養や運動など適度に行い、生活習慣全体   に留意することと、体調の変化や定期的な検診でがんを早めに発見して処置す   ることも大切です。
Q:癌とは細胞の突然変異ということですが突然変異すべてが癌なのですか?また   癌細胞というものはどんどん増殖していくものということですがどうしてそん   なに元気な細胞が体に悪いのでか? A:突然変異は日常的に起こっていますが、大部分は修復酵素によって取り除かれ   ています。突然変異のうちで、がん関連の遺伝子が変異したものだけが問題な   のです。   がん細胞が身体に悪いわけは、それらが無秩序に出す一群の化学伝達物質によ   り、身体の統率がとれなくなり、悪液質状態(体力の消耗や食欲不振などのた   めガリガリに痩せた状態)になるためです。体力低下や抗がん剤のため感染症   にもかかりやすくなります。
Q:ディーゼルエンジンの排ガスの話をしてたと思うのですが、元々東京などの都   会に生まれ住んでいる人と地方の空気の綺麗な所で住んでいた人が東京に来た   場合、やはりディーゼルエンジンの排ガスの蓄積という意味で元々東京に居る   人の方が癌になりやすいのですか?なんとなく、元々東京に住んで居る人の方   が免疫じゃないんですけど、ディーゼルエンジンの排ガスがある環境に慣れて   て発ガンしにくそうだと思ってしまうのですが、実際にデータを出すときに調   べた人というのはどういう人たちなのでしょうか? A:遺伝子の変異の確率は発がん性物質の量や時間と関連し、おそらく耐性がきか   ないと思いますが、修復系酵素については刺激によって(つまり必要に迫られ   て)活性化するかもしれません。ヒトの調査で難しいのは、住所が変わるヒト   が多いことで、講義で示した研究では、「より長く住んでいた」不明な場合、   「亡くなる直前に住んでいた」地域をもって居住地としました。
【以下は深津が答えました】 Q:授業の内容ではない質問になってしまいますがごめんなさい。素朴な疑問なの   ですが、ガウクロで正確な定量はできるのですか? A:「正確な」というのがどの程度かによりますが,定量に一番影響があるのは検   出器の種類と感度でしょう.FID などの一般的な検出器ならば標準試料によっ   て検量線が作成してあれば実用上は十分に正確な定量が可能だと思います.
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