有機応用化学特論Q&A 030117
Q:菌による水素発生では、光の強さの変化を除いた周りの環境の変化
(温度や時間変化など)によらずに、一定して水素発生を続けられ
るのですか?
A:大事なポイントです。光強度だけでなく、もちろん、温度や培地条
件、バッチ培養ではage、つまり水素発生が始まってからの経過時間
も効いてきます。中でも温度は大きい要因で、一定に保つに越した
ことはないのですが、エネルギー生産のためにエネルギー(例えば
冷却エネルギー)を投入できないので、海に浮かべて温度上昇を避
ける光リアクターなどを開発しました。ただ、光以外の条件は、技
術としてはある程度制御できる方法があるのですが、光の自己遮蔽
の問題、つまり照射面近傍では光は強すぎ、後方では自己遮蔽によっ
て減衰してしまうので、光バイオリアクターの有効深さが限定され
る、という問題は今もなかなか有効な解決方法がないので、この点
に重点を置いて話ました。
Q:水素発生に関する研究で光合成細菌とらん藻を使っていましたが、
培養なども含めてみた場合に水素生産に適していると言えるのはど
ちらなのでしょうか?
A:光合成細菌の方が増殖も速く水素生産速度もはるかに大きい、出て
くるガスも、水素と炭酸ガスのみなので優れています。これは、水
分解に光エネルギーを使わず、光エネルギーは低エネルギー電子の
ポンプアップ(低レドックス電位側へ)のみに使われるためです。
このため、光合成細菌には、有機酸や還元イオウ化合物などを電子
供与体として加えてやることが必要です。
藍藻では、この光エネルギーによるポンプアップ系(光化学系)が
2種あって、うち1つに水分解酵素がついています。よって、光エ
ネルギーは水分解にも使われるので、水素生産には、より多くの光
エネルギーが必要ということになります。当日の講義では藍藻が直
接水分解で水素をつくる場合と炭酸ガスからつくった有機物(デン
プン)の嫌気分解による水素生産について述べていましたが、エネ
ルギー論的には、大差がありません。
以上、比較すると、光合成細菌は光エネルギーをベースに考えると、
水素生産効率は高いが、有機物(ないしイオウ)などの電子供与体
が必要。これを逆手にとれば、有機廃棄物処理も兼ねられる、とい
う利点になります。一方、藍藻は有機物などは不要ですが、効率は
落ちる、ということになります。
Q:光合成システムは無尽蔵にある太陽光を利用するという点において
とても効率的です。そんなような太陽光を用いるということは、そ
の光エネルギーを効率的に集めなくてはならないということですが、
光合成細菌は、一般の植物と比べ、体積あたりの集光力、反応率は
比較的高いのですか?また、利用はしやすいのですか?
A:これも大事なポイントですが、一方は単細胞生物であって、他方は
多細胞生物で、3次元的な大きさを持ったものなので、比較が困難
です。植物細胞から光合成器官である葉緑体を取り出して、藍藻
(光合成細菌と藍藻とは少し違います)と比較すると、光合成の効
率はそれほどの大差はありません。ちなみに、葉緑体の進化的な起
源は、太古に他細胞に取り込まれた藍藻だろうと考えられています
(内部共生説)。
逆に、森林や畑と藍藻の大量培養システム(ハワイのコナなどでは、
広大な開放培養池でスピルリナを人工培養しています)を単位受光
面積あたりで比べますと、温帯の森林のバイオマス生産量が、平均
で 5 g乾物/m2/day、スピルリナ培養池(ハワイ)で20弱(単位
同じ)、植物として効率の良いトウモロコシやサトウキビで 10強
程度、といったところでしょう。ただし、スピルリナなどの藻類の
培養では、しょっちゅう培養液を撹拌していなければならない、数
日ごとに部分的に収穫して乾燥粉末にするなど、手間とエネルギー
インプットが小さくなく、乾物あたりの製造原価は農産物よりはる
かに割高です。
Q:分子をなんかの基盤に立ててSTMで観察したと言う話を聞きまし
たが,その分子のSTM観察による導電性の考察などはありませか?
A:良い質問です。平滑基板上に反応中心を平面的にならべてSTMで
観察した論文を私の仲間が出していますが、三次元的な観察が主で、
導電性までは検討してなかった、と思います。ただ、光反応中心の
クロロフィルを挟み込んだ部分は、光によって電荷分離反応を行う
部分ですので、当然導電性は反応中心の他の部分と異なると思いま
す。また、ある種のチトクロームはヘムが4つほぼ直線上に並んで
いるので、このチトクロームを直線上に並べると分子電線ができる
という夢のような話をしていたこともあります。
Q:今回は浅田先生の特別講義ということで、私が現在大学院で研究を
行っている分野とも近く興味深くお話だったと思いました。話を聞
いてまず驚いたのがNEDOや国家プロジェクトのような大きなも
のにも携わってきたということで、最先端の研究をしてきた人なん
だなと思うと同時に少しうらやましく感じましたが、お話の途中で
こぼしていたようにやはり研究は豊富な資金と人材あってのものな
んだということをつくづく感じました。生物体を用いて水素を大量
かつ安定的に供給することができるようになれば、エネルギーの枯
渇に関する問題のみならずその産生に伴う廃棄物による環境問題も
大きく改善される可能性のある研究ではないかと感じました。
A:研究のやり方や体制に眼を向けることも無意味ではありません。NEDO
が関与する国家プロジェクトは、特定の目的を持った研究なので、
ある期間内に、お金や人材を集中するやり方がとられます。このよ
うなプロジェクトは、研究目的、研究チームのメンバー、リーダー
シップとフォーメーションの組み方などにより、うまく機能する場
合とそうでない場合があります。
研究の目的や内容によって、ふさわしいやり方がそれぞれにあるは
ずです。巾広く基礎や周辺を固める、派生的な方向へも展開できる、
研究期間に制約が少ない、など大学の良いところを生かす研究のや
り方を今後は考えていこうと思っています。ただ、外部とのつなが
りはたとえ情報交換だけであっても有益であることは確信していま
す。今年も国際会議で最低2回発表します。
蛋白質に限らず、分子を「機能させる」ためにならべたり、ハンド
リングすることは次世代の産業の根幹になり得る技術だと思ってい
ます。蛋白質の場合はサブユニットなどの自己集合能の再現やその
原理の応用という方向性があると思いますが、合成化学的な手法で
このような要素技術を確立しようとする大月先生のグループのお仕
事は大変重要かつ興味深いものだと思います。
ご指摘のように、エネルギーと環境問題が重なる、という認識は広
く深く広がっています。生物による水素製造は多くの技術の集大成
が必要です。一方、バイオテクノロジーの現況をみると、やはり重
点がヒト細胞や医薬などにあるので、もっと環境・エネルギーにも
応用されていくと良いのですが。
Q:H2をより効率よく合成できる方法が見つかったとして、どのような
ことに利用されるのですか?
A:講義の初めに述べたように、一応エネルギーキャリアーとして考え
ています。平たくいえば、エネルギー源ですが、水素は熱や化学エ
ネルギーや電気エネルギーで再生できるので、エネルギー「キャリ
アー」といわれます。
現在、燃料電池自動車や家庭用燃料電池が試作される時代になって
きています。当面は、天然ガスや石油から製造されるものが使われ
ますが、いずれ再生可能な水素の製造方法が求められるはずです。
現在、化石燃料に依存しない水素の製造方法としては、風力・水電
解が一歩先んじている印象があります。バイオで水素をつくること
は、生産性や効率で問題点は多いのですが、有機廃棄物の処理を兼
ねることができる、水素製造の主体である微生物は使用済みの後、
分解されて自然に帰る、など環境調和性に優れているので、より効
率的な生産方法の研究を行っています。
Q:浅田先生のお話の中で変換効率はまだ低いものの水素を使って実用
化する上で欠点となってしまう事柄はありますか?
A:講義の初めで少し紹介した発酵法(光合成生物によらないで、嫌気
性細菌を用いる方法)も光合成微生物を用いる方法も実用化への問
題点は効率とスピ−ドです。まだ、ここがクリアーできていません。
これができた段階で、発酵法では、原料の廃棄物をどのように大量
に効率的に集めるか、光合成では、大きな受光面積をどのように手
に入れるか(どこに工場を建てたらよいか)、ということになると
思います。
Q:LB膜を形成する際に、LB膜を補強するためにポリマーを付けてると
おっしゃってましたが、膜厚はどのくらいになり、破れ(欠陥がで
き)にくくなるのでしょうか?
A:良い質問です。この辺は自分自身ではやっていないので、詳細は私
の仲間が書いた論文をもう一度読むしかないのですが、手元にない
ので、とりあえず記憶をたどって答えます。LB膜作成時の液層に、
ポリLリジンの重合度を変化させたものを濃度を変えて添加、溶解し、
気液界面に展開した蛋白質のLB膜の強度を測定していました。
蛋白質のLB膜なのでやはり欠陥は多いと想像されます。膜厚は、測
定してなかったと思います(強度のみ測定)。
Q:『畑からプラスチックを生産する』というのを聞いたとき、もしそ
のプロセスが成立したとしても相当収率が悪いと思うんですけれど、
どうなのでしょうか? それとも『石油からのプロセスに代わる
開発段階だから仕方がないと』言われれば確かに納得はするのです
が。
A:後半の答えの通りです。国の研究機関のやることは、そのくらいの
長期的な課題が多いです。つまり、企業ベースに乗りそうなことは
民間におまかせ、です。
Q:水素を発生させるのに太陽の光と実験室での光と結果が違い、太陽
の光の方が水素を発生しにくいと言っていましたが、実用化するた
めには太陽の光で行なうほうがコストがかからず、いいと思うので
すが。例えば、光を照射する時間を変えることによって水素の発生
は変わったりすることはないのですか?
A:もちろん、太陽光の利用をめざしています。説明が不十分であった
かもしれませんが、水素発生速度と入射光に対する効率という問題
があります。太陽光は、天気の良い日の南中時では、光は強すぎ、
速度は速いのですが、効率は落ちます。もちろん光強度の日周変化
も、現実問題として、人工光よりも実験を難しくします。
Q:この菌が生育している付近で、水素ガスによる火災が起こったりし
ないのですか?
A:光合成細菌などで水素を蓄積する実験をしているときは、可能性と
しては充分あり得ますので、火やスパークが近くに存在しないよう
な注意はしています。ただ、光合成細菌の場合は出てくるガスに酸
素が含まれないので爆発限界からははずれるのと、水上置換で集め
ることが多くスパークは出にくい条件です。
Q:水素発生についてあまりよく分からなかったのですが最終的にこの
メカニズムについて一番作用しているのはどの部分なのですか?酵
素とは関係あるのですか?
A:酵素は、ニトロゲナーゼまたはヒドロゲナーゼが関与します。ここ
に、光で生じたエネルギーや還元力が直接ないし、いったん光合成
で生じた有機物の分解を介して伝達され水素が出ます。詳細は総説
を添付しておきますので、読んで下さい。
Q:基本的なことで申し訳ありませんが、光合成を利用しての水素の生
成について詳しく教えてださい。
A:あまり体系的な話ができていなかったようです。すみませんが、長
い回答になるので、総説を読んで下さい。
Q:聞き逃したのかしれませんが、光バイオリアクターのところのお話
で、水素生産効率が光の強度に反比例するとのことですが、なぜな
のでしょうか。
A:これは光合成速度が、入射光強度に対して直線関係にはなく飽和曲
線をえがくためで、光合成の一般的な性質です。光化学反応は早い
のですが、これに他の電子伝達反応や酵素反応が追いつかない、と
理解下さい。
【以下は深津が答えました】
Q:私は、今、学校で英会話(ダニエルさん)をしていますが、いまいち
英語が聞き取れず意味を理解しようとしていると会話が進んでしまっ
て訳がわからなくなってしまう始末です。
よく、英語の映画とか音楽を聴くと良いと言いますがどちらも英語が
早く理解できないのでストレスになってしまいます。
深津先生は以前留学されていたと言っていましたが、英語が聞き取れ
るようになるにはどうしたら良いでしょうか?
A:留学はしてましたが,普通の会話が聞き取れるようにはまったくなり
ませんでした.ただ,多少は慣れたかなぁ,という程度ですね.
思うに,まず第一に英会話の能力以前に基本的な英語力が必要です.
一般的に単語やその発音を知らなすぎる人が多いような気がします.
つぎに,全部聞き取ろうとは思わないことですね.ちょっとでも分か
らないとこがあると焦ってしまいがちですが,分かる部分だけ捉まえ
ていくことで,だんだん慣れてきます.
そして,ダニエルさんとか相手がいるなら,積極的にどんどん話して
みることです.そうすれば向こうもこちらの程度を理解して,分かる
ように話してくれるようになるでしょう.
映画は英語字幕付きのものを,音楽は英文の歌詞を見ながら,繰り返
し見たり聞いたりするといいかもしれません.
Q:リパーゼが失活しないようにする方法はありますか?
A:乾燥していれば,そんなに活性が落ちたりはしないはずです.可能な
らばなるべく空気に触れないようにして,暗冷所に保存すれば数ヶ月
はほとんど変化しないと思います.
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