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(構築中)

現在の研究内容

 

現在のプロセスの多くは化石燃料を用いる熱化学プロセスにより行われています。そのため温室ガスの排出に代表される環境負荷物質が排出されています。本研究室では光を利用する新しい有機化学反応の開発と、それを利用した環境調和型プロセスと材料の開発により、環境負荷を低減するための研究開発を行っています。また、天然高分子の利用や、それらのリサイクルについての技術開発も行っています。

 

従来の熱反応は物質にエネルギーを供給するためには、物質の周りにある媒体(例えば空気や水など)を加熱して、間接的に物質にエネルギーを与える必要があります。そのために媒体の温度を保つために熱を供給し続けねばならないので無駄なエネルギーが必要となります。それに対して光を利用する化学反応は媒体を必要とせず、物質に直接エネルギーを供給できます。そのため本質的に省エネルギープロセスを構築できる可能性を秘めています。また、光は電気エネルギーの変換により容易に得られ、電気エネルギーを太陽光や風などの自然エネルギーから得れば、非常に環境に優しい製造プロセスを構築することができます。更に太陽光をエネルギー源として有機化学反応に利用すれば、光→電気→光・熱のエネルギー変換無しに反応を行うことができます。

 

光を利用する化学反応は熱反応に比べて研究が進んでいないため現在では広く利用されているとは言えません。しかし、光化学反応には熱反応には無い優れた特徴が有るので、当研究室ではこれらの性質をうまく利用して環境に優しい新しい光反応や、それらを用いる製造プロセスを開発することによりこれからの社会の持続的発展に役立つ環境調和型の反応や材料の開発を行っています。

 

 

 

・現在の研究:光を利用する新しい有機化学反応の開発

 

・環境調和型の有機光反応の開発

 

 有機合成や材料の化学的修飾に利用できる光化学反応の開発を行っています。特に太陽光を用いる有機光化学反応や光化学的ラジカル炭素−炭素結合生成反応の開発を行っています。環境負荷を更に低くするために、通常用いられている有機溶媒の代わりに水を溶媒とする有機化学反応の研究も進めています。

 

太陽光を用いる光化学的ラジカル炭素−炭素結合生成反応

 

 

太陽光照射とヘテロ原子を利用する有機光化学反応

 

 

  

太陽光による光反応

 

 

・増感剤・光触媒を用いる反応の開発

 

可視光(太陽光)で働く増感剤・光触媒を用いる反応の開発を行っています。C60フラーレンに構造の異なるアリール基を導入すると、アリール基の立体障害により、励起状態を通常の三重項状態と分子内電荷分離状態との間で切り替えられることを初めて見出しました。C60フラーレン誘導体のこの現象を利用した増感剤・光触媒としての有機化学反応への利用について研究しています。

 

 

 

  化学修飾をしたC60フラーレンの増感剤・光触媒としての利用

 

 

・現在の研究に関連した以前の研究

 

[1]レーザーを利用した化学反応の研究

(a)光反応制御の研究

 

レーザーは光が持つ様々な特徴を、それぞれ制御しながら光照射を行うことができるので、光反応をより精密に制御することができる優れた光源といえます。レーザーは従来より分光学的には広く用いられていますが、有機化学的立場から用いられることは殆どありませんでした。そこで、レーザーの特徴を利用した光反応と、反応手法の開発について研究を行いました。

レーザーの特徴を利用した光反応として、多光子反応とその利用、短寿命中間体の光反応について研究を行いました。また、光反応手法の開発として、遅延時間型二波長パルスレーザー照射法の開発、生成物分析による短寿命中間体の反応挙動の解明、マイクロリアクターを用いた光反応についての研究を行いました。また、レーザーを用いる材料製造手法に関する研究も行いました。

これらの研究の成果は、現在行っている研究に生かされています。

 

 

 

 

二光子反応によるテトラヒドロナフタレン合成

 

 

             

 

短寿命中間体の光反応            生成物分析による短寿命中間体の反応速度解析

 

 

        

レーザー光反応装置と連続反応容器       レーザー反応用マイクロリアクター

 

その他の研究として次のものが有ります

ArFエキシマレーザーを用いたシクロアルカンの直接二量化反応

・円偏光を利用した有機不斉反応

・カルボニル化合物のレーザー気相反応

 

(b)材料合成の研究

 

レーザーの特徴を利用した材料製造に関する研究も行いました。これらの研究の成果は、現在行っている研究に生かされています。

研究として次のようなことを行ってきました。

・レーザー誘起連鎖反応による1,2-ジクロロプロパンの製造

・エキシマレーザーを用いたアブレーションによる低分子有機化合物からの導電性炭素材料および有機磁性体の製造

・エキシマレーザーを用いた炭化水素、SeTeTe/CCu薄膜や微粒子の製造

・レーザーを用いたケイ素化合物のCVD

・レーザーを用いた有機鉄化合物からのナノ粒子の製造

 

[2]光反応性材料の研究

 

光の特徴を利用した材料、およびその製造に関する研究も行いました。これらの研究の成果は、現在行っている研究に生かされています。

研究として次のようなことを行ってきました。

・光反応性LB

 

[3]新しい環境調和型プロセスと材料の開発

 

(a)利用する漂白技術

 

 ・布

商品となる真っ白な綿布を生産するためには漂白は必須のプロセスです。しかし従来の綿布の漂白は塩素系薬剤を用いる長時間の高温プロセスにより行われているため、環境への有機ハロゲン化合物の放出と大量のエネルギーを消費する問題を抱えていました。そこで、室温での光照射による完全ハロゲンフリープロセスを開発しました。この技術を基に小規模生産装置の作成と実証試験を企業と行い、この光漂白プロセスにより従来法と同等の品質の製品が従来法の約半分のエネルギー消費で得られることを実証しました。

 

 布の光漂白小規模生産装置(実証試験)

 

 

・パルプ

パルプの漂白も綿布と同様に塩素系薬剤を用いる長時間の高温プロセスにより行われているため、環境への有機ハロゲン化合物の放出と大量のエネルギーを消費する問題を抱えています。そこで、室温での光照射による完全ハロゲンフリープロセスを開発しました。実験室レベルの試験により、従来法と同等の品質の製品が完全ハロゲンフリープロセスにより得られることを実証しました。

 

  実験室でのパルプの光漂白試験

 

 

 

(b)リサイクル技術

 

・混紡分離と分離した綿粉末の利用

 

繊維製品では異なる素材の良い点を併せ持つ素材を得るために混紡という技術が用いられています。特に木綿の高い吸湿性とポリエステルの形態安定性を併せ持つ素材としてポリエステル綿混紡が多く用いられています。この混紡製品のリサイクルを行うためにはポリエステルと綿を分ける必要がありますが、簡単な分離法が無く繊維業界での長年の懸案となっていました。当研究室ではその簡単な分離法を開発し、この技術を基に企業において200L規模の分離装置の作成と実証試験を行い、この技術の有効性を実証しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回収したポリエステル布は従来のリサイクルシステムにより再利用することができますが、回収した綿粉末の利用法について現在開発を行っています。例えば光化学反応を用いた、セルロースの機能化による石油化学製品代替材料や、食料を原料としない生分解性プラスチック等の材料の開発を目指しています。また、この回収したセルロース粉末は従来の機械的粉砕法により得られるセルロース粉末と比べてバイオエタノール用原料として優れた性能を持っています。

 

 

(c)光化学反応による各種材料の表面改質

 

素材が持つ本来の性質を保ったまま、その表面の化学構造だけを変えることで新たな機能を持たせる技術は様々な製品に利用できます。例えばポリエステルの表面に高い吸湿性を持たせれば木綿との混紡にする必要は無くなりリサイクルが容易になります。

光を利用した表面改質を環境調和型技術としても利用できます。その一例として、ポリエステルの染色性を高める技術を挙げることができます。ポリエステルは普通の染色法では染めることができないので、現在は分散染料という特殊な染料を用いて高温高圧条件で染色されています。この染色方法は多量のエネルギー、高圧に耐えられる容器、煩雑な操作等が必要なため、環境負荷や安全性の点で問題があります。当研究室ではこれらの問題を改善するためのに、ポリエステルの表面に染料との親和性の高い化学構造を光化学的に導入すことで普通の染色法でも染めることができるようにする手法を開発しました。

光を用いる表面改質技術はこの他にも様々な材料や目的に用いることができます。